米中貿易摩擦・新型肺炎渦による中国事業再考

2020年03月07日
米中貿易摩擦・新型肺炎渦による中国事業再考

私は2002年のSARS危機、2003年の小泉首相靖国参拝後の反日デモ以降、「チャイナプラスワン」を提唱し新聞連載やブルームバーグ等のTVでの紹介、そして2007年の新聞記事をまとめての著書「チャイナプラスワン」の出版を行ってきた。ここで申し上げてきたのは中国からの撤退ではない。世界のトップ2であり日本の隣国である中国と日本の関わりは必然でありゼロサムの世界ではない。ただ当時の長江デルタ、珠江デルタへの日本企業の集中は異常であり、周囲が行くから自分も行くという自身の考えのない安易な輸出産業の集積・一極集中は中国という日本とは生い立ちの異なる政治の世界にリスクを考えずに全てを注ぎ込むことに他ならず、日本の稼ぎ頭であった輸出産業を大きなリスクに晒す可能性を秘めていた。
私は当時中国のポリテイカルリスクや疫病による一極集中のリスクを提言し第3の輸出加工産業動脈をインドシナ半島に創造しタイに集積しつつあった自動車産業と結びつけることによりリスク分散を図ろうとするものであった。丁度それから数年で東西経済回廊が開通し南部経済回廊の整備も進んでいった。ベトナムは小中華国家として中国と同様の道を、中国とは一線を隠しながら進んでいく予兆が既にあった。
中国のポリテイカルリスクはその後も尖閣問題に端を発し2013年には大規模な反日暴動に発展、現在に至り未だその傷は癒えておらず両国政府により必死のイメージ回復キャンペーンの只中にある。
そして2019年にはマイケル・ヒルズベリー著の「China2049」をトランプ政権が真剣に受け止めるようになり結果として米中貿易摩擦が勃発。日本企業は2003, 2013に続き2019にもそのリスクに晒された。但し2019は中国のPolitical Liskに晒されるのが最早日本のみではなく世界であることを示した事象である。相入れぬ世界の2大大国。そして20世紀、戦争の産物として米国とは精神的・経済的そして国家防衛を含めアメリカと一心同体となった日本。そして隣国として経済的に強い結びつきができ、こちらとも切っても切れない関係となった日中関係。この間で日本企業も揺れている。
更には今、新型肺炎のパンデミックにより、SARSの拡大版としてまずは東アジアが、そして今世界が揺れている。私の想定したリスクはこの20年足らずで世界的な課題へと拡張した。
しかしそれでもなお、私は日本は中国を中心とした新たな東側世界と、従来の価値観を守る西側世界と同時にうまくリスクをヘッジしながら付き合い続けるべきであると考えている。2013年から2016年まで私は銀行の最後の3年間、世界5大陸を周り企業のグローバルオペレーションを見て世界各地の強み、リスクを垣間見てきた。グローバル企業はこうしたリスクを分散し、それぞれの地域で生き残っていくための現地完結型オペレーションを組もうとしている。どこかの大陸で危機が発生すればデカップリングされた他の大陸のオペレーションがこれを支援する形だ。中国においても究極の形はこの形なのである。中国完結型、つまり輸出加工を行うのではなく、技術力で差別化を図り現地調達、現地生産、現地販売を行うモデルだ。問題が起きれば他の大陸からこれを支援する。大手メーカーは中国市場で数千億円から1兆円を売っている。中国はリスクだからやめるという単純な判断はできない。
問題は中堅中小企業である。これら企業群はグローバル企業ではなく、しかし日本単独で生きるローカル企業でもない、リージョナル企業である。リージョナル企業は日本の延長線上に海外オペレーションがある。このモデルでは日本本社は海外のリスクに影響される。この本社連動リスクを抑制するには売上規模の一定水準以下への抑制、投融資金額の上限の設定を行い本社が持ち堪えられる範囲での地域事業を行う他ない。
リスクに晒されるたびに中国からの撤退案件が増える。しかし一方で進出案件もまだまだある。進出は華東地域に集中するようになったがまだ年間で500-1,000社が進出する。これはASEAN全体の進出に近い水準だ。
これからの中国オペレーションは一層の思考とバランスが求められる。
出るも引くも、安易な判断はせず中長期的視野に立った戦略が必要となろう。



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